はじめに
AIで業務改善を考えるとき、まず「どの作業をAIで置き換えられるか」を探し始めることは珍しくありません。実際、自分もAI活用の話をしていると、そうした発想から入るケースをよく見ます。
もちろん、その発想自体が間違いというわけではありません。AIで置き換えられる作業を探すことにも意味はあります。ただ、その順番から入ると、AIでできそうか が先に立ち、その業務全体として本当に意味のある改善か が後回しになりやすくなります。
AI業務改善で大事なのは、完成した業務フローの中にAIをどれだけ入れるかではありません。まず業務フローを分解し、どこまで決定論で再設計できるかを見たうえで、どうしてもパターン化しきれない部分にだけAIを使う。この順番のほうが、全体として安定した仕組みにしやすいと考えています。
また、ここで言いたいのは「AIを使わないほうがよい」という話でもありません。むしろ、AIは仕組みを考える段階や作る段階ではかなり強力です。大事なのは、AIを使うかどうかではなく、どこで使うかを分けることです。
この記事では、AI業務改善を考えるときに、まずどこから整理するとよいのかを、自分なりの実務フレームとして整理します。あわせて、社内問い合わせ受付や権限付与申請のような例を使いながら、AIをどこに使い、どこには使わないほうがよいかも考えていきます。
この記事でわかること
- AI業務改善で最初に見るべき観点
- AIを本番フローに入れる範囲の考え方
- 業務フローを見直すときの具体例
1. 「AIでできること」から考え始めるとずれやすい
AI業務改善を任されると、まず「この作業はAIで置き換えられそうだ」と考え始めるのは自然です。最近は生成AIでできることも増えているので、なおさらそうなりやすいはずです。
ただ、ここで少し注意が必要です。AIでできそう ということと、その形で業務改善する意味がある ということは、同じではありません。
たとえば、ある作業だけを切り出してAIに任せられそうに見えても、その前後工程とのつながり、例外処理、責任分界、品質の安定性まで含めて考えると、そのまま本番に入れるのがよいとは限りません。本来はルール化できる部分までAIに任せてしまうと、かえって仕組み全体が不安定になることもあります。
つまり、AI業務改善でずれやすいのは、業務全体をどう改善するか より先に、どの作業をAIに置き換えるか を考えてしまうことです。だからこそ、作業単体を見る前に、まず業務全体を見直す必要があります。
2. 先にやるべきは、業務フローの分解
自分がAI業務改善を考えるとき、最初にやるのは業務フローの分解です。いきなりツールや実装の話には入らず、まずその業務がどんな工程で成り立っているのかを整理します。
ここで見たいのは、少なくとも次のような観点です。
- 入力は何か
- 出力は何か
- 何を基準に判断しているか
- どんな例外があるか
- どこに工数がかかっているか
入力と出力を整理すると、その工程が前後の工程とどうつながっているかが見えます。判断ルールを整理すると、ルール化できる部分と、そうでない部分が見えやすくなります。例外を見ると、本当にAIが必要な部分や、人が最終的に見るべき部分も見えやすくなります。
工数を見るのも重要です。仮にAIで置き換えられそうでも、そもそもほとんど時間がかかっていない工程なら、優先度は下がるかもしれません。逆に、工数が大きく、しかもルール化しやすい工程なら、改善対象としてかなり有力です。
この段階では、まだAIをどこに入れるかを決める必要はありません。まずやるべきなのは、業務全体を見える形にし、どこにどんな性質の処理があるかを把握することです。
3. パターン化できる業務と、できない業務を分ける
業務を分解していくと、毎回ほぼ同じルールで処理すべき部分と、その場の文脈や解釈が必要な部分が混ざっていることがよくあります。
たとえば、申請内容に応じて決められた担当へ回す、特定の条件なら特定の処理をする、といったものは、比較的パターン化しやすい部分です。一方で、自由記述の内容を読んで意図を補完したり、曖昧な表現を読み解いたりするのは、どうしても解釈が入りやすい部分です。
この記事では、便宜上、前者を 決定論的、後者を 非決定論的 と呼びます。決定論的とは、同じ入力であれば、基本的に同じ結果になるべき処理です。非決定論的とは、入力が曖昧だったり、判断に文脈が必要だったりして、完全にはルール化しきれない処理です。
AI業務改善で大事なのは、この2つを先に分けることです。安定して回るべき部分は、できるだけ決定論に寄せたほうがよいです。そうして初めて、どこにAIを使うべきかが見えてきます。
逆に、この切り分けをせずにAIを入れると、本来は毎回同じように処理されるべき工程まで、曖昧な判断に依存することになります。AIが悪いというより、安定させるべき工程に対して、仕組みの置き方が合っていないのだと思います。
4. AIはどこで使うべきか
ここで言いたいのは、AIを使わないほうがよい、ということではありません。むしろAIは、仕組みを作る段階ではかなり広く使えます。
たとえば、過去データの整理、カテゴリの洗い出し、必要入力項目の叩き台作成、ルール案の整理、ワークフロー実装の補助などには、AIがかなり有効です。この段階では試行錯誤のコストが比較的低く、AIのスピードや発想支援が効きやすいからです。
一方で、完成した本番フローの中にAIを無理に入れる必要はありません。AIを使って業務を見直し、仕組みを設計し直した結果、本番ではルールベースや定型処理で安定して回るようになったなら、それは十分にAI業務改善です。完成形にAIが目立つ形で残っていないと価値がない、とは考えていません。
本番でAIを使うとしたら、どうしてもパターン化しきれない部分や、例外処理、自由記述の補助解釈のような部分に絞るのが自然です。AI業務改善では、AIをどこまで増やすか よりも、AIをどこまで削るか を考えるほうが重要です。
言い換えると、AIは仕組みを作るためには広く使い、仕組みを回すためには最小限にする、という考え方です。

5. 具体例: 社内問い合わせ受付・担当振り分け
たとえば、Slackやメールで自由文の問い合わせを受け付け、内容を見て担当を振り分ける業務を考えてみます。多くの組織でありそうな業務で、AIを使いたくなる場面でもあります。
ここで最初に思いつきやすいのは、問い合わせ本文をAIに読ませて、カテゴリ分類、優先度判断、担当振り分けまでまとめてやらせる形です。実際、技術的にはかなりできそうに見えますし、デモとしてもわかりやすいです。

ただ、本番の仕組みとして考えると、ここにはいろいろな処理が混ざっています。そこでまず、業務を 受付 -> 内容整理 -> 分類 -> 振り分け -> 対応 のように分解して見ます。
このとき、過去の問い合わせをAIで整理すると、よくあるカテゴリ、必要な入力項目、どの担当へ回すべきかのルールはかなり事前に設計できることが多いです。たとえば、問い合わせ種別、対象システム、緊急度、必要な添付情報のような項目を先に揃えれば、振り分け判断のかなりの部分は定型化できます。つまり、本番で毎回AIに全部読ませて判断させなくても、多くの部分は先に仕組み化できます。
そう考えると、完成形は、問い合わせフォームを整えたり、入力項目を定型化したり、カテゴリごとにルールベースで振り分けたりする形のほうが安定しやすいはずです。AIを残すとしても、自由記述の補助解釈や、ルールに乗らない例外ケースの補助に絞るほうが自然です。
ここで重要なのは、問い合わせ処理をAIに任せる から 問い合わせ業務をAIで再設計する へ発想を変えることです。AIは、最終形の中心にいる必要はありません。むしろ、業務を見直すための強力な補助として使うほうが、全体としてうまく回ることも多いです。
6. 補足例: 権限付与申請フロー
同じ考え方は、もっと精度や再現性が重要な業務にも当てはまります。たとえば、権限付与申請のような業務です。
ここでも、申請文をAIに解釈させて、必要な権限や承認ルートまで動的に判断させる形は、一見すると便利そうに見えます。ただ、この種の業務では、判断の揺れがそのまま権限ミスや統制上のリスクにつながります。
そのため、AIを本番判断の中心に置くよりも、申請パターンの整理、必要権限の対応表作成、例外パターンの洗い出しに使うほうが価値が大きいはずです。完成形は、対応表に基づいて決定論で処理し、どうしても曖昧な申請だけを例外として扱うほうが自然です。
問い合わせ受付のような業務でも、権限付与のような業務でも、基本の考え方は変わりません。精度や再現性が強く求められる業務ほど、完成形は決定論寄りに設計したほうがよい場面が多いと感じます。
7. AI業務改善を考えるときの3つの見方
ここまでの話を、持ち帰り用に短くまとめると、次の3つになります。
7-1. 業務を分解する
まず作業単体ではなく、前後工程を含めて業務フロー全体を見ることです。どの工程が何を受け取り、何を返しているのかを整理すると、改善の対象が見えやすくなります。
7-2. パターン化できるかを見る
次に、各工程の入力、出力、判断ルール、例外を整理し、決定論に寄せられる部分を先に確定します。毎回同じように処理すべき部分は、まずルール化や定型化を考えるほうが自然です。
7-3. AIを入れる場所を絞る
そのうえで、AIは設計や実装には広く使い、本番ではどうしてもパターン化できない部分だけに残します。AIを増やすことではなく、AIを残すべき場所を見極めることが重要です。
まとめ
AI業務改善で大事なのは、業務の中にAIを増やすことではなく、AIを前提に業務を再設計することです。
そのためには、まず業務フローを分解し、どこが決定論で処理できるのか、どこだけが本当に非決定論を必要としているのかを見極める必要があります。AIで置き換えられそうな作業を探すのは、その後でも遅くありません。
そしてAIは、仕組みを作る段階ではかなり広く使えます。一方で、完成した本番の仕組みには最小限だけ入れれば十分なことも多いです。AIで何を置き換えるか から入るのではなく、AIを前提にどう業務を設計し直すか から考えるほうが、現実の業務改善にはつながりやすいはずです。
なお、この記事は個別業務をどう見直すかに重心を置いています。組織の中で AI をどう立ち上げ、試せる状態を作り、継続利用までつなげるかは、社内AI推進は研修だけでは進まない で整理しています。